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【掲載(国際学術誌Healthcare)】高齢者の性別や仕事内容による慢性疼痛や疲労の差を解明

2021年5月31日

高齢者の性別や仕事内容による慢性疼痛や疲労の差を解明

~農作業や趣味が疼痛軽減につながる可能性~

研究成果のポイント

  1. 現在、コロナ禍の影響によって、地域在住高齢者の外出機会が減少しており社会的な問題となっています。一方、持続可能な社会の発展(SDGs)を目指すために、高齢者の積極的な社会参加(経済活動を含む)の取り組みを推進していくことが求められています。しかし、高齢者の主要な外出機会となる仕事や趣味活動と慢性疼痛や疲労などの身体症状との関連性について不明でした。
  2. 本研究では、高齢女性は慢性疼痛・疲労と仕事や趣味活動の間に関連性はみられませんでした。一方、高齢男性は、慢性疼痛の強さと趣味活動の制限の間で正の相関を示し、疲労は仕事の制限との間で正の相関を示しました。
  3. 本研究では、性別によって慢性疼痛・疲労に影響を与える要因が異なることがわかりました。特に高齢男性では、慢性疼痛・疲労の軽減が、趣味活動や仕事の向上に繋がることが示唆されました。

研究の活用

  1. 男性の場合は、作業療法士(※注1)等が支援し、仕事や趣味活動の維持が慢性疼痛の軽減に。
  2. 女性の場合は、理学療法士(※注2)等が支援し、直接的な運動や体操が慢性疼痛の軽減に。
  3. 山梨県においては、農作業やスポーツなどの趣味活動を組み込んだ公衆衛生政策が想定される。

※注1:作業療法士とは、対象者の仕事や趣味活動などの様々な作業活動を通じて、心身機能維持・

向上を支援する、こころとからだのリハビリテーション専門職です。

※注2:理学療法士とは、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援するリハビリテーション専門職です。

概要

 健康科学大学作業療法学科 志茂聡准教授、坂本祐太助教・甘利貴志助教(健康科学大学理学療法学科)、坂本理恵(笛吹市社会福祉協議会)、千野正章(山梨総研)、永井正則名誉教授(健康科学大学福祉心理学科)らの研究グループは、山梨県内の地域在住高齢者を対象とした調査により、高齢女性では慢性疼痛が日常生活動作や仕事、趣味活動には影響していない反面、高齢男性では慢性疼痛と疲労が、仕事や趣味活動に強く影響していることを初めて明らかにしました。高齢者の慢性疼痛や疲労のリスク要因を考慮した保健福祉および就労支援の取り組みが、持続可能な社会の実現に重要であることが示されました。

本研究成果は、国際科学誌「Healthcare (ヘルスケア)」に掲載(2021525日)されました。

■背景

ここ数十年、世界的に平均寿命が延びており、2014年の世界平均は約70歳、先進国では約80歳に達しています。さらに、日本では世界に類を見ない急速な高齢化とともに、深刻な総人口の減少による生産年齢人口の割合の減少が大きな課題となっています。今後、持続可能な社会の発展(SDGs)を目指すために、高齢者の積極的な社会参加の取り組み(経済活動を含む)を推進していくことが求められています。一方、高齢者では慢性疼痛が多いことは知られていましたが、男女間での慢性疼痛の保有率・痛みの強さ・痛みの部位の違いなどは十分明らかになっていませんでした。さらに、高齢者の主要な外出機会となる仕事や趣味活動と、慢性疼痛・疲労などの身体症状との関連性について不明でした。

■研究成果

我々は、山梨県内の地域在住の65歳以上の男女(男性36名、女性75名、計111名)を対象に慢性疼痛と疲労の有無と日常生活動作、仕事、趣味活動の関連を調査しました。その結果、高齢女性では、慢性疼痛の割合が非常に高く、膝や腕など複数の部位に痛みを持つ人が多いことがわかりました(図12

一方、高齢男性の日中の仕事では、農作業をしている人が多いことがわかりました(図3。さらに、大変興味深いことに、高齢男性では慢性疼痛の強さと「趣味活動の制限」の間で正の相関を示し(表1、疲労の強さと「仕事の制限」との間で正の相関を示し(表2、性別によって慢性疼痛と疲労に影響を与える要因が異なることがわかりました。

高齢男性では、慢性疼痛の軽減が趣味活動の拡大に繋がる可能性があることが明らかになりました。また、疲労の軽減が仕事の改善に繋がる可能性が示唆されました。現在、高齢者の健康維持には運動教室を中心に実施されていますが、今後は仕事や趣味活動を含めた公衆衛生政策を検討していくことが、持続可能な社会に大きな役割を果たすと考えられます。

■今後の展望と課題

 本研究成果を踏まえて、作業療法士や理学療法士による介入が、慢性疼痛軽減にどのような効果が得られるのか、山梨県内の地域在住高齢者を対象として、さらに調査研究を進めていきたいと考えています。また、山梨県内の高齢農業従事者の農繁期での職業性疾病の解析も進めており、高齢者の健康増進とともに高齢者の就労支援および発展に結び付けていきたいと考えています。

 【研究助成】

本研究は次の助成を受けて行われました:公益財団法人 日本興亜福祉財団ジェロントロジー研究助成事業(志茂)

【論文情報】

  • タイトル:Differences between the Sexes in the Relationship between Chronic Pain, Fatigue, and QuickDASH among Community-Dwelling Elderly People in Japan
  • 掲載雑誌(国際学術誌): Healthcare, https://www.mdpi.com/journal/healthcare