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【掲載(スイス専門誌Genes誌)】トップアスリートにおける先天的な脳活動と遺伝因子

2021年3月10日

トップアスリートにおける先天的な脳活動と遺伝因子

-最新の知見と今後の展望-

 

【概要】

 健康科学大学・健康科学部・理学療法学科の准教授・田中将志は、北澤光也理学療法士(第18期生)、盛岡大学・長谷川和哉先生、有賀大智理学療法士(第18期生)と共同で、生まれつきの運動能力と遺伝との関係について、世界最新の知見と今後の展望をまとめた総説論文を発表しました。今回、先行研究の知見を基に、脳の先天的な活動の違いが、どのように運動能力の発揮の違いにつながるかについて、運動学習やメンタルコントロールに関わる遺伝子の関与の可能性や、セロトニン等が関わる中枢神経系の活動の重要性を考察しています。本総説論文は、スイスの専門誌Genes誌のオンライン版に掲載されました(日本時間2021年3月5日)。

 

【内容】

 ヒトにも様々な個性があり、例えばもともと運動が得意なヒトも、そうではないヒトもいます。イギリスで実施された、双子を対象とした遺伝学的検討から、国際大会に出場するようなトップアスリートの運動能力は、約66%が遺伝と関係していることが報告されています(参考文献1)。また、近年の遺伝子解析技術の進歩により、運動能力に関係する遺伝子の候補は200以上見つかっており、トップレベルの運動能力に関連する遺伝子の候補も、少なくとも155が報告されています。これらの多くは、筋肉、心肺機能やエネルギー代謝に関わるもので、個々の先天的な運動能力の違いに関係すると考えられてきています(図1)。

 一方、私達の脳は、運動技術の習得、身体行動の調節や精神的ストレスへの対応等を担っています。従って、脳機能も、運動能力に密接に関連すると考えられます。しかしながら、先天的な運動能力と先天的な脳活動との関係の詳細は、ほとんど分かっていません(図1)。

 

そこで、遺伝学的な先行研究を基に、その関係についての文献的考察に取り組みました。その結果、トップアスリートの脳においては、セロトニン作動性神経系やドパミン作動性神経系等、いくつかの中枢神経系の働きに特徴があり、そのような特性が、運動学習、睡眠調節やメンタルコントロールに対し効果的に作用する可能性が考えられました。特にセロトニン作動性神経系は、ドパミン、γ-アミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸やノルアドレナリンの作動性神経系との相互作用が示唆されています(図2)。本総説論文では、今後、これらの中枢神経系に関わる遺伝子やその機能をさらに調べることで、個々の遺伝的特性に応じたトレーニングプログラム、理学療法、パーキンソン病等の関連疾患の治療について、効果的な個別化戦略の開発につながる可能性を新たに提唱しています。

 

 運動能力に遺伝素因が関与することは報告されてきていますが、運動能力を決定づけているわけではありません。アスリートのたゆまぬ努力、社会的なサポート、様々な環境因子が関わっており、運動は生活を豊かにし得るものです。

 

参考文献

  1. De Moor MH, Spector TD, Cherkas LF, Falchi M, Hottenga JJ, Boomsma DI, De Geus EJ. Genome-wide linkage scan for athlete status in 700 British female DZ twin pairs. Twin Res Hum Genet. 2007;10:812-20. doi: 10.1375/twin.10.6.812.

 

【研究助成】

本研究は次の助成を受けて行われました:JSPS科研費[JP20K19716(長谷川)、JP19K07927(田中)]、公益財団法人 小林財団(長谷川)、健康科学大学(田中)。

 

【総説論文情報】

  • タイトル: Potential Genetic Contributions of the Central Nervous System to a Predisposition to Elite Athletic Traits: State-of-the-Art and Future Perspectives
  • 掲載雑誌(専門誌:遺伝学、ゲノム科学): Genes, https://www.mdpi.com/journal/genes
  • 掲載論文: https://www.mdpi.com/2073-4425/12/3/371

 

【著者】

北澤 光也a)†、長谷川 和哉b)、有賀 大智a)、田中 将志a)

a)健康科学大学 健康科学部 理学療法学科

b)盛岡大学 栄養科学部 栄養科学科

†論文筆頭著者:北澤 光也

*論文責任著者:田中 将志

¶論文最終著者:田中 将志

(以上、論文掲載順)