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糖尿病治療薬の新規作用とメカニズムを解明!-糖尿病性認知症の予防・改善に資する可能性-

2024年2月14日

糖尿病治療薬の新規作用とメカニズムを解明!
-糖尿病性認知症の予防・改善に資する可能性-

 

【概要】

 健康科学大学健康科学部リハビリテーション学科の教授・田中将志は、国立病院機構京都医療センター・浅原哲子部長、加藤久詞流動研究員を中心とする研究チームと共同で、マウスの脳における免疫細胞・ミクログリアを用い、新しい2型糖尿病治療薬・イメグリミンの新規作用とそのメカニズムの解明に取り組みました。

 その結果、イメグリミンは、糖尿病性刺激により活性化したミクログリアにおいて、活性酸素を減少し、ミトコンドリア傷害も軽減することが判明しました。さらに、細胞のオートファジー(自食作用)の構成要素の一つ・ULK1は、それまで知られていない抗炎症作用を有しており、イメグリミンはULK1を活性化してTXNIP–NLRP3という経路を抑制することで、神経や血管を傷つける炎症性物質の産生を抑制することを、世界に先駆け明らかにしました。

 この成果は、血糖降下作用とは異なる、イメグリミンによる新しい脳保護作用の可能性を示すものです。糖尿病は脳内炎症の増悪に関わり、また、脳内炎症は認知症の発症・進展に関係することから、本成果は、糖尿病性認知症の効果的予防法や新規治療戦略の構築に貢献することが期待されます。本研究論文は、スイスの専門誌Cells誌のオンライン版に掲載されました(日本時間2024年2月5日)。


【研究内容】

 私たちの脳ではミクログリアという細胞が働いて老廃物などを除去し、脳内環境を維持しています。しかしながら、糖尿病や加齢に伴い、ミクログリアが活性化したり機能異常を起こしたりすると、神経や血管を傷つける活性酸素や炎症性物質を産生し、認知機能低下につながる可能性が考えられています(図1)。

 イメグリミンは経口2型糖尿病治療薬で、世界で初めて本邦で承認されました。その血糖降下の機序として、膵β細胞や肝細胞などに対し、細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリアなどへの作用を介して糖代謝改善効果を発揮すると考えられています。

 そこで、研究チームは、糖尿病性刺激を受けたミクログリアに対しても、イメグリミンはミトコンドリアなどに作用し、その活性化を抑制する可能性があるのではないかと考え、詳細な検討を行いました。

 その結果、イメグリミンは、ミクログリアにおいて、糖尿病性刺激による活性酸素の増加や損傷ミトコンドリアの増加を抑制することが判明しました。また、細胞には、老廃物などを分解するオートファジー(自食作用)という機能が備わっています。研究チームは、その構成要素の一つであるULK1が、それまで知られていなかった、オートファジーとは独立した新たな炎症抑制作用を有することを初めて見出しました。さらに、イメグリミンは、そのULK1を活性化することで、炎症誘発経路・TXNIP–NLRP3を抑制し、糖尿病性刺激によるミクログリア活性化を抑えることを、世界に先駆け明らかにしました(図2)。

 今回の研究成果は、糖尿病性認知症に対するイメグリミンの効果について、新たな脳保護作用とその機序を提唱するものと考えられます。特に、イメグリミンは血糖降下薬であることから、糖代謝を改善することで、糖尿病による認知機能低下のリスクを低減させる可能性が考えられます。したがって、糖代謝改善を介した認知機能低下抑制という間接作用と、今回明らかにしたミクログリアに対する直接作用との相乗効果により、イメグリミンは糖尿病による認知症リスクの低減に寄与する可能性が期待されます。

 今後、イメグリミンの作用機序のさらなる検討やマウスを用いた個体レベルの検討とともに、ヒトを対象とした臨床研究によりイメグリミンの機能的意義・臨床的意義をさらに明らかにすることで、糖尿病性認知症の効果的な予防・治療戦略の開発に結び付けていきたいと考えています。

 

【研究助成】

 本研究は、一部、次の助成を受けて行われました:JSPS科研費[JP21K17557(加藤)、JP22K07411(岩下)、JP22K11720(山陰)、JP22K07456(田中)、JP21H02835(浅原)、JP22K19723(浅原)]、花王健康科学研究会(加藤)、中冨健康科学振興財団(加藤)、健康科学大学(田中)、国立病院機構共同臨床研究(H29-NHO-01)(浅原)。

 

【論文情報】

 

【研究チーム】

加藤 久詞1†, 岩下 香里1, 岩佐 真代1, 加藤 さやか1,2, 山陰 一1, 菅波 孝祥3,4,5,6, 田中 将志1,7,*, 浅原 哲子1,8,

1) 国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
2) 京都府立医科大学 大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学
3) 名古屋大学環境医学研究所 分子代謝医学分野
4) 名古屋大学大学院医学系研究科 免疫代謝学
5) 名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所
6) 名古屋大学 創薬シーズ開発・育成研究教育拠点
7) 健康科学大学 健康科学部 リハビリテーション学科
8) 名古屋大学環境医学研究所 メタボ栄養科学研究部門

†論文筆頭著者:加藤 久詞
*論文責任著者:田中 将志、浅原 哲子
¶論文最終著者:浅原 哲子
(以上、論文掲載順)

 

【問い合わせ先】

健康科学大学 総務部 総務課
TEL: 0555-83-5200
FAX: 0555-83-5100