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肥満症の心血管疾患発症における血清尿酸値の新たな意義の解明!―血清尿酸値を標的とした心血管疾患発症リスク低減のための新規戦略開発へ―

2023年10月2日

肥満症の心血管疾患発症における血清尿酸値の
新たな意義の解明!
―血清尿酸値を標的とした心血管疾患発症リスク低減のための
新規戦略開発へ―

 

【概要】

 健康科学大学リハビリテーション学科・教授・田中将志は、国立病院機構京都医療センター臨床研究センター・浅原哲子部長、若林大研究員、奈良県立医科大学大学院医学研究科・笠原正登教授を中心とする研究チーム(JOMS Group)と共同で、国立病院機構肥満症多施設共同研究(NHO-JOMS)の全国多施設共同コホートを基盤とする肥満症患者を対象に、5年間の追跡により、心筋梗塞や脳卒中等の心血管疾患(CVD)イベント発症を検討し、登録時の血清尿酸値の影響を検討しました。

 その結果、女性の肥満症患者における高尿酸血症は、CVD発症の新たな危険因子であることを初めて明らかにしました。さらに、高尿酸血症のみならず、低尿酸血症も、男女いずれにおいてもCVD発症リスクを上昇させることを見出しました。

 これらの成果から、血清尿酸値とCVD発症リスクとの関連が明らかとなり、本研究は、肥満症におけるCVD発症リスク低減のための新規予防戦略の構築につながることが期待されます。本研究論文は、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation: IDF)が刊行する糖尿病専門誌Diabetes Research and Clinical Practice誌のオンライン版に掲載されました(日本時間2023年9月21日)。


【研究内容】

 肥満は世界的に増加していますが、肥満症は、心血管疾患(CVD)の発症・進展と密接に関連するメタボリックシンドロームの最大の要因であることが分かっています。また、肥満には高尿酸血症を伴うことが多いため、高尿酸血症は、痛風や代謝障害のみならず、CVD発症にも関与する可能性が注目されています。しかしながら、その詳細は明らかではありません(図1)。

 

 そこで研究チームは、肥満症患者を対象として、高尿酸血症と心筋梗塞等のCVD発症との関連を詳細に検討しました。その結果、女性の肥満症患者では、初期の血清尿酸高値は、次の5年間におけるCVD発症の危険因子であることが判明しました(図2)。

 

 また、男女ともに、血清尿酸値とCVD発症リスクとの間にU字型の関連が認められたことから、低尿酸血症と高尿酸血症いずれもがCVD発症リスク上昇に関わることが示唆されました(図3)。さらに、CVD発症リスクが最も低くなる血清尿酸値は、男性(6.6 mg/dL)よりも女性(5.2 mg/dL)の方が低値を示すことが明らかとなりました(図3)。

 

 

 今回の研究成果は、特に女性の肥満症患者において、将来のCVD発症を予測する上で、血清尿酸値の測定が有用である可能性を示唆するものと考えられます。血清尿酸値が高値である患者を同定することで、適切な医療の提供により、CVD発症の早期予防が期待されます。また、低尿酸血症・高尿酸血症はともにCVD発症リスク上昇に関わり、そしてCVD発症リスク低減の血清尿酸最適値には性差があることが判明しました。そこで、性差を踏まえた、CVD発症リスク低減のための血清尿酸値の目標域の提唱につながると考えられます(図4)。

 

 

 以上、本研究により明らかとなった、血清尿酸値の新たな臨床的意義により、肥満症患者におけるCVD発症の予測・早期予防のための新規戦略の開発に貢献できる可能性が期待されます。

 

【研究助成】

 本研究は、一部、次の助成を受けて行われました:国立病院機構共同臨床研究(H26-NHO-02)(浅原)、JSPS科研費[JP22K11720(山陰)、21H02835(浅原)、JP22K19723(浅原)]。

 

【論文情報】

 

【研究チーム】

若林 大1,2†、加藤 さやか1,3、田中 将志1,4*、山陰 一1、加藤 久詞1、日下部 徹1、小津 有輝1,2、笠間 周2、笠原 正登2、浅原 哲子1,5

 

1) 国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
2) 奈良県立医科大学大学院医学研究科 臨床実証医学講座
3) 京都府立医科大学 大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学
4) 健康科学大学 健康科学部 リハビリテーション学科
5) 名古屋大学環境医学研究所 メタボ栄養科学研究部門

 

† 論文筆頭著者:若林 大
* 論文責任著者:浅原 哲子、田中 将志
¶ 論文最終著者:浅原 哲子
(以上、論文掲載順)

 

【問い合わせ先】

健康科学大学 総務部 総務課
TEL: 0555-83-5200
FAX: 0555-83-5100