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【掲載(Nutrients/スイス)】糖尿病における認知機能低下を防ぐ -タキシフォリンの新たな可能性-

2023年6月19日

糖尿病における認知機能低下を防ぐ
-タキシフォリンの新たな可能性-


【概要】

 健康科学大学健康科学部リハビリテーション学科の教授・田中将志は、国立病院機構京都医療センター・浅原哲子部長、岩佐真代流動研究員、加藤久詞流動研究員を中心とする研究チームと共同で、マウスの脳における免疫細胞・ミクログリアを用い、植物由来のポリフェノールであるタキシフォリンという物質の新規作用とそのメカニズムの解明に取り組みました。その結果、タキシフォリンは、糖尿病性刺激により活性化したミクログリアに対し、活性酸素を減らしてTXNIP–NLRP3という経路を抑制することで、神経や血管を傷つける炎症性物質の産生を抑制することを、世界に先駆け明らかにしました。

 この成果は、タキシフォリンによる新しい脳保護作用の可能性を示すものです。糖尿病は脳内炎症の増悪に関わり、また、脳内炎症は認知症の発症・進展に関係することから、本成果は、認知症の効果的予防法や新規治療戦略を構築する上で大きく貢献することが期待されます。本研究論文は、スイスの専門誌Nutrients誌のオンライン版に掲載されました(日本時間2023年6月13日)。


【研究内容】

 私たちの研究チームは、これまで、タキシフォリンというポリフェノールの新たな作用を報告してきました。認知症モデルマウスを用いた検討から、タキシフォリンにより、認知機能低下の抑制や、認知症の原因となるアミロイドβや炎症性物質の減少効果を認めています(Saito et al. Acta Neuropathol Commun. 2017;5(1):26; Inoue et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019;116(20):10031-10038)。また、肥満・糖尿病モデルマウスなどの検討より、タキシフォリンは、肥満や糖尿病を改善し、肝臓の線維化や肝がんへの進展を抑制する作用があることも明らかにしました(Inoue et al. Nutrients. 2023;15(2):350)。さらに最近、早期認知症の患者において、タキシフォリンにより、認知機能が維持される効果を示唆する結果も見出しています(Hattori et al. J Alzheimers Dis. 2023;93(2):743-754)。

 通常は、脳ではミクログリアという細胞が働いて老廃物などを除去し、脳内環境を維持しています。しかしながら、糖尿病や加齢に伴い、ミクログリアが活性化したり機能異常を起こしたりすると、神経や血管を傷つける活性酸素や炎症性物質を産生し、認知症リスクにつながる可能性が考えられています(図1)。そこで、研究チームは、糖尿病性刺激を受けたミクログリアに対しても、タキシフォリンはその活性化を抑制する可能性があるのではないかと考え、詳細な検討を行いました。

 その結果、糖尿病性刺激を受けたミクログリアにおいて、活性酸素の増加とともにTXNIP–NLRP3という細胞内経路が活性化し、炎症性物質の産生が増加することを見出しました。さらに、タキシフォリンは、活性酸素を減少させることでその炎症誘発経路・TXNIP–NLRP3を抑制し、ミクログリア活性化を抑制することを、世界で初めて明らかにしました(図2)。

 今回の研究成果は、認知症に対するタキシフォリンの効果について、新たな脳保護作用とその機序を提唱するものと考えられます。特に、タキシフォリンは肥満・糖尿病の改善作用も有することから、糖代謝を改善することで、糖尿病による認知機能低下のリスクを低減させる可能性も考えられます。したがって、今回明らかにしたミクログリアに対する直接作用と、糖代謝改善を介した認知機能低下抑制という間接作用との相乗効果により、タキシフォリンは糖尿病による認知症リスクの低減へ効果的に寄与する可能性が期待されます。

 今後、タキシフォリンの作用機序のさらなる検討やマウスを用いた個体レベルの検討とともに、ヒトを対象とした臨床研究によりタキシフォリンの機能的意義・臨床的意義をさらに明らかにすることで、認知症の効果的な予防・治療戦略の開発に結び付けていきたいと考えています。


【研究助成】

  • 本研究は、一部、次の助成を受けて行われました:JSPS科研費[JP22K07411(岩下)、JP22K11720(山陰)、JP22K07456(田中)、JP21H02835(浅原)、JP22K19723(浅原)]、健康科学大学(田中)、国立病院機構共同臨床研究(H26-NHO-02)(浅原)。 


【論文情報】


【研究チーム】

岩佐 真代1,†, 加藤 久詞1,†, 岩下 香里1, 山陰 一1, 加藤 さやか1,2, 齊藤 聡3, 猪原 匡史3, 西村 秀雄4, 川本 篤彦4, 菅波 孝祥5,6,7,8, 田中 将志1,9,*, 浅原 哲子1,10,

1)国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
2)京都府立医科大学 大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学
3)国立循環器病研究センター 脳神経内科
4)神戸医療産業都市推進機構 医療イノベーション推進センター
5)名古屋大学環境医学研究所 分子代謝医学分野
6)名古屋大学大学院医学系研究科 免疫代謝学
7)名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所
8)岐阜大学高等研究院 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター
9)健康科学大学 健康科学部 リハビリテーション学科
10)名古屋大学環境医学研究所 メタボ栄養科学研究部門

†論文筆頭著者:岩佐 真代、加藤 久詞
*論文責任著者:浅原 哲子、田中 将志
¶論文最終著者:浅原 哲子
(以上、論文掲載順)


【問い合わせ先】

健康科学大学 総務部 総務課
TEL: 0555-83-5200
FAX: 0555-83-5100