【掲載（Frontiers in Endocrinology/スイス）】糖尿病における認知機能低下を予測する－sTREM2の新たな可能性－

糖尿病における認知機能低下を予測する

－sTREM2の新たな可能性－

 

【概要】

　健康科学大学健康科学部理学療法学科の教授･田中将志は、国立病院機構肥満症･糖尿病多施設共同研究（NHO-JOMS/JDOS2）の全国多施設共同コホートを基盤に、国立病院機構京都医療センター臨床研究センター･浅原哲子部長、山陰一主任研究員を中心とする研究チーム（DOR-KyotoJ）と共同で、非肥満糖尿病患者を対象に、認知機能と様々な臨床指標との関連を2年間にわたり検討しました。その結果、血糖管理が良好でない患者において、血液中のsTREM2というタンパク質の濃度が高いほど、2年後の認知機能が低下することを明らかにしました。

　この成果から、sTREM2濃度を測定すれば、認知機能低下のリスクが高い患者を早期に見出せる可能性があり、それにより糖尿病治療の強化等を介して、認知機能低下のリスク低減に貢献できる可能性が期待されます。本研究論文は、スイスの専門誌Frontiers in Endocrinology誌のオンライン版に掲載されました（日本時間2022年5月3日）。

 

【研究内容】

　これまで、糖尿病があると認知症のリスクが高くなることが分かっています（図1）。しかしながら、糖尿病における認知機能低下を予測する因子は見つかっていませんでした。

 

　一方、アルツハイマー型認知症の原因遺伝子の一つとして、triggering receptor expressed on myeloid cell 2 (TREM2)が知られています。TREM2は脳や脂肪組織で作られるタンパク質ですが、その一部分は可溶型TREM2（soluble TREM2: sTREM2）として、血液に遊離されると考えられます（図2）。

 

 

　そこで研究チームは、sTREM2に着目し、血液中のsTREM2濃度が糖尿病の認知機能低下と関連する可能性について詳細に検討しました。その結果、血糖管理が良好でない非肥満糖尿病患者では、測定時（0年後）の血中sTREM2濃度が高いほど、2年後の認知機能が低下する傾向にあることを認めました（図3）。

 

 

　今回の研究成果は、将来の認知機能低下を予測する上で、血中sTREM2の測定が有用である可能性を示唆するものと考えられます。従って、sTREM2値が高い場合には、血糖管理を良好にするための治療を強化することで、認知機能低下のリスク低減に結び付けられる可能性が期待されます（図4）。

 

 

　今後、sTREM2の機能の解明、血糖変動のより継続的な計測や、より長期の検討を通して、糖尿病における認知機能低下の新規予知指標･治療戦略の開発へと結び付けていきたいと考えています。

 

【研究助成】

本研究は、一部、次の助成を受けて行われました：国立病院機構共同臨床研究（H26-NHO-02, H29-NHO-01）（浅原）、JSPS科研費［JP19K07927（田中）、JP19K07905（山陰）、JP18H02737（浅原）、JP18K19769（浅原）、21H02835（浅原）］、公益財団法人 武田科学振興財団（田中）、健康科学大学（田中）、公益財団法人 喫煙科学研究財団（2019T004）（浅原）。

 

【論文情報】

• タイトル: Higher Serum Soluble TREM2 as a Potential Indicative Biomarker for Cognitive Impairment in Inadequately Controlled Type 2 Diabetes Without Obesity: The DOR-KyotoJ-1
• 掲載雑誌（専門誌：加齢内分泌学部門）: Frontiers in Endocrinology, https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology, https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology/sections/endocrinology-of-aging#about
• 掲載論文: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fendo.2022.880148/full

 

【研究チーム】

田中 将志^1,2†*, 山陰 一¹†, 村中 和哉¹, 山田 努³, 荒木 里香⁴, 小河 淳⁵, 的場 ゆか⁵, 渡邉 哲博⁵, 齋藤 美穂⁶, 栗田 征一郎⁷, 米澤 一也⁸, 田中 剛史⁹, 鈴木 雅裕¹⁰, 澤村 守夫¹¹, 松本 守生¹¹, 西村 元伸¹², 日下部 徹¹, 和田 啓道¹³, 長谷川 浩二¹³, 小谷 和彦¹⁴, 野田 光彦^15,16, 浅原 哲子^1,17*¶

¹⁾国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部

²⁾健康科学大学 健康科学部 理学療法学科

³⁾国立病院機構名古屋医療センター 糖尿病･内分泌内科

⁴⁾国立病院機構三重病院 内科（呼吸器、糖尿病･内分泌）

⁵⁾国立病院機構九州医療センター 臨床研究センター 代謝内分泌内科

⁶⁾国立病院機構徳島病院 内科

⁷⁾国立病院機構金沢医療センター 内分泌･代謝内科

⁸⁾国立病院機構函館病院 臨床研究部

⁹⁾国立病院機構三重中央医療センター 糖尿病･内分泌内科

¹⁰⁾国立病院機構埼玉病院 循環器内科

¹¹⁾国立病院機構渋川医療センター 血液内科

¹²⁾国立病院機構千葉東病院 糖尿病･内分泌内科

¹³⁾国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 展開医療研究部

¹⁴⁾自治医科大学 地域医療学センター 地域医療学部門

¹⁵⁾国際医療福祉大学 市川病院 糖尿病･代謝･内分泌内科

¹⁶⁾埼玉医科大学 内分泌･糖尿病内科

¹⁷⁾名古屋大学 環境医学研究所 メタボ栄養科学研究部門

†論文筆頭著者：田中 将志、山陰 一

*論文責任著者：浅原 哲子、田中 将志

¶論文最終著者：浅原 哲子

（以上、論文掲載順）

 

【問い合わせ先】

健康科学大学 教務部 教務課

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