サルコペニアと認知症の新たな早期指標を解明!-フェーズアングルの新規意義-
2025年5月9日
サルコペニアと認知症の新たな早期指標を解明!
-フェーズアングルの新規意義-
【概要】
健康科学大学健康科学部リハビリテーション学科・教授・田中将志は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター・浅原哲子副院長(ジェロサイエンス研究センター長、併任:代謝内分泌研究部 部長)(国立病院機構京都医療センター・内分泌代謝高血圧研究部長兼任)、同志社大学スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科・石井好二郎教授、池上健太郎研究員を中心とする研究チームと共同で、武田病院グループ健康診断受診者を対象に、サルコペニア関連指標と認知機能との関連を横断的に検討しました。
その結果、特に女性において、フェーズアングルという測定値が高い程、軽度認知障害のリスクが低いことを、初めて明らかにしました。フェーズアングルは筋肉の質や細胞の健康状態を反映し、サルコペニアの新たな指標の一つとして注目されています。さらに、記憶低下は認知機能障害の最初期に現れる症状ですが、男女いずれにおいても、フェーズアングルが高い程、記憶指標が高いことを見出しました。
これらの知見から、フェーズアングルを指標とすることで、特にサルコペニアと認知症の両リスクが高い女性を早期に同定できる可能性が示唆され、本研究は、サルコペニアと認知症のリスク低減のための新規予防戦略の構築につながることが期待されます。本研究論文は、アメリカ合衆国の専門誌Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌のオンライン版に掲載されました(日本時間2025年5月8日)。
【研究内容】
加齢に伴い筋肉の量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態をサルコペニアと言います。サルコペニアは転倒・骨折のリスクや死亡率の上昇と関連することが報告されており、高齢者の健康寿命において、最も重要な課題の一つとなっています(図1)。さらに、最近、サルコペニアが進展すると認知機能低下のリスクが上昇することや、アルツハイマー型認知症においてはサルコペニアの占める割合が高いことも報告されました。したがって、サルコペニアと認知症は相互に関連する可能性が考えられてきています(図1)。
そこで、私たちの研究チームは、サルコペニア指標(筋量、筋力、筋質等)と認知機能指標(記憶、言語、注意等)との関連を詳細に検討すれば、サルコペニアと認知症の両方のリスクが高い状態を早期に検出できる、新たな指標を見出せるのではないかと考えました(図1, 2)。
健康診断を受診した一般住民を対象に詳細な検討を行ったところ、特に女性において、サルコペニア指標の中でもフェーズアングルという測定値が高い程、軽度認知障害のリスクが低いことを見出しました(図3)。フェーズアングルは細胞の健康状態や筋質を反映し、高値の場合はサルコペニアのリスクが低く、低値になるとそのリスクが上昇する、新たなサルコペニア指標として注目されています。さらに、認知機能障害の最初期に現れる症状として記憶低下がありますが、男女いずれにおいても、フェーズアングルが高値である程、記憶指標が高いことが判明しました。
これらの知見から、フェーズアングルはサルコペニアのみならず、早期の認知機能低下の新規指標としても有用である可能性が考えられます。また、本研究において、フェーズアングルと認知機能との関連は、特に女性において認められました。脳と筋肉は密接に相互作用することが分かりつつありますが(脳-筋連関)、本研究から、女性では男性よりも脳-筋連関が顕著であり、より繊細であって、加齢による影響を受けやすい可能性が示唆されます(図3)。
本研究により、サルコペニアと認知症の両リスクが高い女性を早期に同定できる新規指標として、フェーズアングルが有用である可能性を初めて明らかにしました。本研究成果は、高リスク女性を対象とした栄養・運動等の早期介入の実現のみならず、サルコペニアと認知症の性差医療にも貢献できる可能性が期待されます。今後、基礎研究と臨床研究を通して、フェーズアングル、サルコペニア、認知症、脳-筋連関の因果関係を解明し、サルコペニア・認知症の効果的な予防・治療戦略の開発に結び付けていきたいと考えています。
【研究助成】
本研究は、一部、次の助成を受けて行われました:JSPS科研費[JP24K14447(加藤)、JP22K07456(田中)、JP22K11720(山陰)、JP24K02363(浅原)、JP24H02835(浅原)、JP22K19723(浅原)]、日本糖尿病学会若手研究助成(加藤)、武田科学振興財団(加藤)、喫煙科学研究財団(浅原)。
【論文情報】
- タイトル: Phase Angle Is a Potential Novel Early Marker for Sarcopenia and Cognitive Impairment in the General Population
- 掲載雑誌(専門誌:悪液質、サルコペニア、体組成、生理学的・病態生理学的変化): Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, https://onlinelibrary.wiley.com/journal/1353921906009
- 掲載論文: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jcsm.13820
【研究チーム】
池上 健太郎 1,2†, 加藤 久詞1, 田中 将志1,3,*, 山陰 一1, 加藤 さやか1, 岩佐 真代1, 大石 寛 4, 山本 結子 2, 金﨑 めぐみ 5, 桝田 出 1,6, 石井 好二郎 4,*, 浅原 哲子1,*¶
1)国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
2)同志社大学大学院 スポーツ健康科学研究科
3)健康科学大学 健康科学部 リハビリテーション学科
4)同志社大学 スポーツ健康科学部
5)武田病院健診センター
6)三菱京都病院
†論文筆頭著者:池上 健太郎
*論文責任著者:田中 将志、石井 好二郎、浅原 哲子
¶論文最終著者:浅原 哲子
(以上、論文掲載順、所属:論文投稿時)
【問い合わせ先】
健康科学大学 総務部 総務課
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