脂肪肝発症リスクと体重増加歴との関連を解明!-質問票による「健診当日フィードバック」の新規意義-
2025年9月9日
脂肪肝発症リスクと体重増加歴との関連を解明!
-質問票による「健診当日フィードバック」の新規意義-
【概要】
健康科学大学健康科学部リハビリテーション学科・教授・田中将志は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター・浅原哲子副院長(ジェロサイエンス研究センター長、併任:代謝内分泌研究部 部長)(国立病院機構京都医療センター・内分泌代謝高血圧研究部長兼任)、岩佐真代研究員を中心とする研究チームと共同で、武田病院グループ健康診断受診者を対象に、質問票の各項目と脂肪肝発症との関連を縦断的に検討しました。
その結果、問診項目の中で、「体重が20歳から10 kg以上増加」に該当する人は、回答時に肥満であるか否かによらず、次の5年間における脂肪肝発症リスクが高いことを明らかにしました。
また、体格指数であるBMI(Body Mass Index)は、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ることで算出でき、日本ではBMI 25以上が肥満、22が標準に分類されます。本研究より、BMIごとに、脂肪肝発症の低リスクと関連する問診項目も明らかとなり、それらは「牛乳・乳製品を毎日摂取」(BMI 22未満)、「海藻・きのこ類を毎日摂取」(BMI 22以上25未満)、「満足度の高い睡眠」(BMI 25以上)であることが判明しました。
これらの結果から、健康診断時の質問票により、次の5年間の脂肪肝発症リスクが高い人を同定でき、さらには高リスクの人に対し、BMIに応じてリスクを下げる食習慣・生活習慣を提案できる可能性が考えられます。高リスクの人の同定と、リスク低下のためのその人へのフィードバックは、いずれも健康診断を受診する当日に可能と考えられることから、このような「健診当日フィードバック」は、脂肪肝発症リスク低下に資することが期待されます。本研究論文は、スイスの専門誌Nutrients誌のオンライン版に掲載されました(日本時間2025年8月6日)。
【研究内容】
脂肪肝は、肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態です。肥満では肝臓への脂肪蓄積が増加しますが、脂肪肝は、肥満であってもなくても発症することが分かっており、肝炎、肝硬変や肝臓がんへと進展するリスク因子となっています(図1)。
脂肪肝を検出するには超音波検査等が有効ですが、特殊な装置が必要になります。血液検査から肝機能を調べることができますが、検査結果が判明するまでに時間を必要とします。広範な人々を対象として、簡便かつ迅速に、脂肪肝発症リスクの高い人を同定できる方法も、これまで十分には開発されてきていません。
これらを踏まえ、私たちの研究チームは、健康診断時の質問票(問診票)に注目しました。問診項目と脂肪肝発症との関連を詳細に検討すれば、発症リスクの高い人を同定できる項目を見出せるのではないかと考えました(図2)。
そこで、健康診断を受診した一般住民の中で、オプションとして腹部超音波検査を受け、脂肪肝のなかった人たちを対象に5年間追跡し、受診時の問診項目に対する回答と追跡期間における脂肪肝発症との関連を詳細に検討しました。
その結果、多岐にわたる問診項目(運動習慣、喫煙習慣、間食等)の中で、脂肪肝発症リスクとの関連が最も強い因子は「体重が20歳から10 kg以上増加」の経歴であることを明らかにしました。さらに、この体重増加歴があると、受診時に肥満であるか否かによらず、回答時からの5年間における脂肪肝発症リスクが高くなることが判明しました(図3、4)。
研究チームはさらに、脂肪肝発症の低リスクと関連する問診項目についてもBMIごとに見出し、それらは「牛乳・乳製品を毎日摂取」(BMI 22未満)、「海藻・きのこ類を毎日摂取」(BMI 22以上25未満)、「満足度の高い睡眠」(BMI 25以上)であることを明らかにしました(図5)。
本研究より、脂肪肝発症の高リスク及び低リスクと関連する問診項目が判明し、脂肪肝発症リスク低減における質問票の意義が明らかになりました。体重増加歴の有無を見ることで、今後5年間における脂肪肝発症リスクが高い人を同定することが可能になると考えられます。さらに、高リスクが判明した人に対しては、BMIに応じて、低リスクに関連した食習慣・生活習慣を提案できる可能性が考えられます。
健康診断の結果がすべて揃わなくても、受診当日に適切な特定保健指導の実施が可能になれば、フィードバック効果がより向上すると考えられます。質問票に基づくこのような取り組みは、健康診断の受診日に可能であると考えられることから、「健診当日フィードバック」として普及することにより、脂肪肝予防に貢献することが期待されます。
【研究助成】
本研究は、一部、次の助成を受けて行われました:花王健康科学研究会研究助成(岩佐)、JSPS科研費[JP25K14831(岩佐)、JP25K14978(山陰)、JP22K07456(田中)、21H02835(浅原)、JP22K19723(浅原)]、国立病院機構共同臨床研究(H26-NHO-02)(浅原)。
【論文情報】
●タイトル: Self-Reported Weight Gain After the Age of 20 and Risk of Steatotic Liver Disease
●掲載雑誌(専門誌:栄養学): Nutrients, https://www.mdpi.com/journal/nutrients
●掲載論文: https://www.mdpi.com/2072-6643/17/15/2566
【研究チーム】
岩佐 真代1†, 小津 有輝1,2, 山陰 一1,3, 加藤 久詞1,3, 石川 実里1, 金﨑 めぐみ 4, 桝田 出 1,5, 田中 将志1,3,6*, 浅原 哲子1,3,7*¶
1)国立病院機構 京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
2)奈良県立医科大学附属病院 臨床研究センター
3)国立長寿医療研究センター ジェロサイエンス研究センター 代謝・内分泌研究部
4)武田病院健診センター
5)三菱京都病院 糖尿病内科
6)健康科学大学 健康科学部 リハビリテーション学科
7)国立長寿医療研究センター 代謝内科
†論文筆頭著者:岩佐 真代
*論文責任著者:田中 将志、浅原 哲子
¶論文最終著者:浅原 哲子
(以上、論文掲載順)
【問い合わせ先】
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